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高校生になって藝大に進路を決めた時どういうことが頭にあったんでしょうか?
新設された学科でいろいろ情報もないし。
アボカズヒロ とりあえず、自分が一番好きなことを大学で堂々とできそうなところが、ここしかなかったんですよね。本当に堂々とできるかどうか情報がなかったので確証もないし。しかもまぁ“天下の藝大”に楽器も楽譜も出来ない自分がいけるとは全然思っていなくて、記念受験のつもりでした。いわゆる進学校というわけではなかったので、ほんとにリアリティなかったんです。
--- そうなんですか。藝大が決まった時の周囲のリアクションとかすご〜いって感じでした?
アボカズヒロ そうですね。初の藝大だったので。
--- 入試の時は、論文でしたか?
アボカズヒロ センターと論文と自己表現ですね
--- 高校時代からインターネットで音楽の情報を仕入れたりとか、してました?
アボカズヒロ していました。あとは、ネット上の交流で作り手同士リミックスしあったり。その当時のメンバーが、今一緒にイベントをやってるメンバーの核になっていたりします
--- ほう!八戸 からでもそういうことできるんですね。
アボカズヒロ ネットを使えばいくらでも出来ますよ。MP3で素材を送りあったり、そういうことは中3くらいからやっていましたね。そういう風にして作ったリミックストラックが、インディーズミュージシャンのCDに収録されて発売されたりとか。天誅というテクノユニットなんですけど。
--- そうなんですか。
アボカズヒロ 高1のころだったと思います。2年かな?
--- ブロードバンドが八戸にも普及しはじめた時期ですね
アボカズヒロ
そうですね。時期的には。でもISDNでしたけど。
使っているPCも中1のころに買ったPC9821を、大学入学祝いに買い換えるまでずっと使っていました。スペック的にはMMXペンティアム166MHzとかでメモリ32メガですね。それで、ACID2.0というソフトで音楽を作っていました。ACIDは今もメインソフトで、未だに2.0つかってます
--- そこは高校生魂でカバーしたんですね(笑)
アボカズヒロ そうですね。いろいろとサンプリングのノウハウも学びました
--- 音楽環境創造科というのは、色々音楽の場をコーディネートしたりオーガナイズしたりするということを重要視してるみたいですよね。普段はどういったことを勉強しているんでしょうか
アボカズヒロ そこは微妙でですね。僕が“こうだ”っていっちゃうのは少し危険ではありますし。授業も様々ありまして、普通に作曲家をめざすひともいたりするんですよ。アートマネジメント系、演奏実技系、録音技術系、舞台創作系、出版系…いる学生も様々で。本当に節操がないくらいいろんな授業があるなかで、自分の関心に近いものをとる。といった感じですね
--- 特にその中で興味深い授業とかありました?
アボカズヒロ 個人的には「音楽とテクノロジー」という授業が楽しかったですね。かなり自由に音楽とテクノロジー、両方に関わっていることなら何調べてもいいよ。みたいな授業だったもので
--- 詳しく聞いていいですか?
アボカズヒロ 前期は、サウンドスケープとか、映画と音楽の係わり合いとか、そういうあまり統一性の無いような話を先生がなさって、それに対してディスカッションをしたりしました。サウンドスケープのときはですね、研究をされている鳥越けい子先生が実際にいらして、先生を囲んでいろいろ話す。みたいな感じでした。映画の場合は、日本で始めて映画に音楽がついた溝口健二の「雨月物語」を見たんですよ。そして、前期の終わりにテーマ自由のレポート研究の課題が出て、後期はその研究の発表と、それについてのディスカッション。みたいな感じでした。
--- 溝口健二の映画についてはどういう風にいってました?
アボカズヒロ 最初の部分で、雅楽の楽器と能の楽器が同時に使われていることとかを挙げて、この頃からそういうことも許されるようになってきた。とかそういう話をなさってました
--- 音楽の使われ方、といってもそういう視点で語るんですね。
アボカズヒロ そうですね
--- 西岡龍彦先生、どんな方でした?
アボカズヒロ もの凄くくだけたおっさんですよ(笑)
--- あの、そういうことは(笑)いいんですか?
アボカズヒロ それくらい柔軟じゃないと、なかなかこれだけ多様な生徒がいる学科の学科長は務まらないんでしょうね。たとえば、藝大の作曲科卒とかになると、かなりクラシック的音楽教育のエリートなんですよ。
--- そうだと思います。
アボカズヒロ そういうバックボーンの人が、たとえば僕みたいに楽器も楽譜もまったくだめな生徒を指導しないといけないわけですから。
--- コンピューターだからできること、っていうのをよくわかってる人はアカデミックな世界では希少でしょうね。
アボカズヒロ ましてやDJなんて、理解してもらうのは大変です
--- アカデミズムの世界とはまた別な話になりますが、生演奏とかが出来る人ってちょっとDJを低く見る人もいますよね。「DJは自己満足ではないか?」とか言う人もいたり。
アボカズヒロ ベンヤミンのアウラ の考えなんかを引き合いに出して、生対複製物という図式にして批判するひとなんかもいますね
--- 子供に機材を触れさせた話を伺いましたが、ターンテーブルに触れることで、演奏されているものを聴くだけというスタンスとどういった違いが生まれるとお考えですか?
アボカズヒロ
ある部分では、この“この音楽はここで完成されている”という前提を破壊しちゃうんじゃないでしょうか。
例えば展開だとか音質に関しては、DJセットを使えばいくらでも組みかえれるんですよ。そこで、自分が“もっとこうだったらいいなぁ”って思っていたら、その音楽は完成品ではなくなっていて、自分がいくらでも入り込めるんですよね。
--- 技術的にはわかるんですけど、レコードってそもそも必ずしも完成品とは限らないのでは?
アボカズヒロ でも、やっぱり大多数の人って売ってるCDを買ってきたら、それは完成品だと思ってますよ。CDとか、音楽を作るってすごいことだ。みたいな漠然とした意識はあると思います。CDショップに並んでいる段階で、なんか権威みたいなものを感じさせるというか。
--- 実際にターンテーブルやミキサーを触れた後、そういう部分で曲が変わったり壊れたりする様子を体験できるということが、どういった影響を及ぼすんでしょうか?
アボカズヒロ 音楽って手で触ってコントロールできるものなんだ。っていう感覚ってかなり面白いと思います。ピアノとか、楽器一つずつなら分かる子も多いと思うんですけれど、”楽曲”っていう単位でコントロールするっていう感覚は新鮮なんじゃないかなぁ。
--- それが聴くだけ、という立場とは大きく変わってくるかもしれないということですね
アボカズヒロ もっと音楽に対して、こう、能動的になれるんじゃないかなぁ。僕がもし子供にターンテーブルを触らせるとしたらなにを期待するかというと、ある音楽を聴いて、「この曲のここは好きだけど、ここは嫌い。こうだったらいいのに。」って思ったら、その嫌いな部分を自分でリミックスしようと思うような姿勢の人が増えるんじゃないかな?という期待ですね。
--- アボさん自身はターンテーブルに向かう時、どうして壊しちゃおうとか壊しちゃいたいって思うんですか?
アボカズヒロ 難しいところなんですけどね。自分の嗜好の元にレコードのいろいろな要素をいじくるっていうのはDJとしては大前提なんですよ。そこは意図的。だけど、壊れているかというのはさじ加減がいろいろ違いますからね。ある人は、すこしでもイコライザーを変えたらもう壊れていると判断するかもしれないし、ある人はギッタギタにしないと壊れていると思わなかったり。壊しちゃいたいというのが前提にあるというよりは、楽曲を僕の嗜好に手繰りよせてプレイした結果、結果的には壊れていることもあるよ。くらいの感じです。
--- 意図して壊すのではない、というわけですか。でも元の演奏者をきちんと尊敬してない、って言う話をされたり。
アボカズヒロ そうですね。
--- そんなことないですよね。そこら辺は研究でフォローしていくつもりはありますか?
アボカズヒロ
そこは、実は藝大の大学院の博士課程で研究している方がいらっしゃって。
谷口文和さんという方なんですけど
--- あ、先行してる人がいたんですね
アボカズヒロ そうです。個人的にも親交が深い方です。
--- 音楽学の人ですか?
アボカズヒロ そうです。音楽学の方ですね。
--- 輸入権問題でかなり怒ってらっしゃった。
アボカズヒロ それなりに憤りは感じていたようです。
--- 子供以外にDJを見せたい対象としてはどういう層を考えてますか?
アボカズヒロ まず、単純なところではお年寄りですね。もちろん音量等を配慮して。あとは、元ディスコ世代のクラブミュージックへの反応なんかも面白いかもしれませんね。個人的な趣味なんですけど、あの有線放送ってやつの主張の無さがすごくハナについて、そういうのもDJがやればいいのにって前から思ってたんですよ。だから、そういう場所でDJしたいな。と。それくらいやったらDJのイメージももう少し健全になるかもー。みたいな。マック行く感覚でクラブいけるようにならないですからね。まだまだ。
--- まあ終わったばかりですが、これから研究をプロジェクトとしてどういう方向で進めるつもりですか?
アボカズヒロ 終わったというか、始まったばかりなのですが、これからも何回も続けていくことで、今回の結果と比較したりしながら進めていきます。今特に見たいとおもっているポイントは、 アンセムが生まれるまでの過程 様々なジャンルの音楽への反応の違い ノンビートの音楽の捉え方 自分のよく知っている音楽がサンプリングされ、リミックスされている場合にどう反応するのか? などですね
--- それらは僕も興味はあるんですが、でも、それらは普段クラブとか通ってる人たちを分析するだけでもある程度できるような気もします
アボカズヒロ アンセムの発生を分析するのは出来ますね。ジャンルごとの違いというのは、今回ハウスをプレイして、その結果から一つの仮説をたてまして。幼児の心拍数はBPMに直すと110〜160くらいである。また、4歳くらいまでは胎内の記憶がある子供も多く、早い鼓動の音(低音、キックの音に近い)を聴くと脳が自分の鼓動と勘違いして興奮するという事例がある。ハウスのBPMは125前後であるので、ちょうどこの範囲に収まる。今回のノリ、これは心拍、または胎内記憶が関係しているのではないか?と。だから、そこを検証するためにそこからずらしたようなものを聞かせて反応を見る必要があるな。と思ったんですよ
--- ところで、芸大の音楽専攻の学生なんかどんな反応してくれるんでしょうね?興味あります。他の学科の人と交流してないですか。
アボカズヒロ 他の学科との交流は、ない訳ではないんですが、キャンパスが音楽学部で僕の科だけ取手キャンパスだったりして、薄いですね。僕は楽器も1つもできないし、楽譜もまったくよめないような人間なので、そっちの方が分からない(苦笑)
--- 全然違うジャンルを歩んできた音楽専攻の人を引き込めたらおもしろいんだろうけど…将来はどういう道に進みたいんですか?やっぱりミュージシャンにはなりたい?
アボカズヒロ なんでしょう。広義のDJですね
--- ターンテーブルに触れることは、生楽器の演奏にも繋がっていくと思いますか?
アボカズヒロ 自分の音の嗜好というものに自覚的であるというポイントは共通して大きいと思いますよ
--- 研究とやりたいことの間に今後ギャップが生まれることもあると思いますが、そういった心配はありますか?
アボカズヒロ それでも、DJとしての自分の糧になることだと思っているので、その可能性は否定しませんが、心配はあまりしていませんね
--- でも学校の研究がこれだけ注目を浴びるって結構いい気分じゃないですか?
アボカズヒロ
いや、さっきも言いましたけど、不慣れなことに挑戦しようと思い立った矢先にこういう反応ですからね。
今は「これからどう転がそう〜」ということで頭がいっぱいです。無理をする必要ないことは分かっているんですが、そこはDJ特有のサービス精神といいますか、人が見てくれているならつまらないことには出来ないな。と思ってしまいますし。DJでいうと、まだピッチあわせがちょっと出来るようになったかな。くらいですからね(苦笑)
--- Web上で自分をどうアピールしようかってことも気を遣ってるんですね。
アボカズヒロ ぶっちゃけた話、都内でのDJの誘いとかも増えてくれれば、そりゃうれしいですよ(笑)
そのビデオを彼は次のクラブ・イヴェント中に上映するという。
2005年2月26日(土)17:00〜22:00
浅草STELLA / \1,200(with 1drink)
トローリング☆ラヴァーズ 〜幼稚園DJロングバージョン上映会〜
http://www.my-thai.net/stella/ →MAP
ぶっちゃけ彼に興味のある人は、行って来ましょう。